哲学者の研究書の権威
 

哲学の研究書でもっとも出ているのはモノグラフ(哲学者一人の思想を研究したもの)です。これには、評価されているものとそうでないものがはっきりあって、現在の読解レベルを代表している基本となる研究書というのがあります。それが「権威」と呼ばれる研究書です。もっとも、それが哲学者の考え総てを完全に理解しているということはまずありませんが、最低でもその程度の理解には達していないことにははじまらないので、必ず参照する必要があるものです。もっとも、現代の外国人による研究書はレベルが高すぎて日本人には理解されていないものもあります。ここでは、古典的なものばかりではなく、私が個人的に「これはすごい!」と思った最新の研究書も紹介しておきます。まあ、いきなり読んでもまず分からないようなものばかりでしょうけれどね。


ソクラテス以前


ソクラテス

プラトン
    コイレ『プラトン』

アリストテレス
    ハイデガー「自然の概念と本質」、『道標』
    ブレンターノ「アリストテレス以降の存在者のさまざまな意味について」   

デモクリトス・エピクロス・ルクレティウス


ストア派

プロティノス
    Gandillac, La sagesse de Plotin


アウグスティヌス


トマス・アクィナス
    Gilson, Thomisme,

ドゥンス・スコトゥス


ウィリアム・オッカム
 

クザーヌス
    Gandillac, La philosophie de Nicolas Cues

ガリレイ
    コイレ『ガリレオ研究』
   

ホッブズ

 

デカルト
    Geuroult, Descartes selon l'ordre des raisons,


ロック


スピノザ
    Geuroult, Spinoza
    ドゥルーズ『スピノザにおける表現の問題』

マルブランシュ

ニュートン
    コイレ『ニュートン研究』

 ライプニッツ
    Geuroult, Dynamique et métaphysique leibniziennes,

ヴィーコ

バークリー

モンテスキュー

ヴォルテール


 ヒューム
     ドゥルーズ『経験論と主体性』

ルソー


ディドロ


コンディヤック


カント
    ドゥルーズ『カントの批判哲学』
    カッシーラー『カント』


フィヒテ
    Jean-Christophe Goddard, La philosophie Fichtéenne de la vie, Vrin, 1999

 メーヌ・ド・ビラン
    北明子『メーヌ・ド・ビランの世界 : 経験する「私」の哲学』勁草書房、1997
    アンリ・グイエ『メーヌ・ド・ビラン : 生涯と思想』


ヘーゲル
    イポリット『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』
→世界的に有名なのはこれ。超古典。コジェーヴのはまあ一時代のもの。
    加藤尚武『ヘーゲル哲学の形成と原理 理念的なものと経験的なものの交差』未来社、1980
    竹村喜一郎『ヘーゲル哲学の方位 : 「構造」としての「概念」とその展相』五月書房、1995
→日本のヘーゲル研究者のものとしてはこの二冊が決定版。かなりすごい。
    廣松渉『弁証法の論理 : 弁証法における体系構成法』(廣松渉著作集 第2巻)岩波書店、1996(青土社、1980
→おっとこれも忘れちゃいけない。廣松哲学の核心でもある。


 シェリング
    ハイデガー『シェリング講義』


 ニーチェ
    ハイデガー『ニーチェ』
    ドゥルーズ『ニーチェと哲学』
    クロソウスキー『ニーチェと悪循環』


フッサール


ベルクソン
    V・ジャンケレヴィッチ『アンリ・ベルクソン』
    ドゥルーズ『ベルクソンの哲学』
    Keith Ansell Pearson, Philosophy and the adventure of the virtual : Bergson and the time of life, London/New York, Routledge , 2002
    カンギレム「『創造的進化』第三章への注釈」



 ハイデガー
    小野真『ハイデッガー研究 : 死と言葉の思索』京都大学学術出版会 , 2002
→日本語で出ているもののなかでは上のが総括的なものだ。
    Theodore Kisiel., The genesis of Heidegger's Being and time, Berkeley, University of California Press, 1993.
    William J. Richardson, Heidegger : through phenomenology to thought, The Hague, Martinus Nijhoff, 1963.
→この二つの研究書はすでに古典的なもの。英語のばっかりだけど。
    Daniel O. Dahlstrom, Heidegger's concept of truth, Cambridge/New York, Cambridge University Press, 2001
→ハイデガー研究の新局面を示す研究書が出た! 真理論としてのハイデガー哲学の再生。


 メルロ=ポンティ
    廣松渉・港道隆『メルロ=ポンティ』岩波書店、1983
    加國尚志『自然の現象学 メルロ=ポンティと自然の哲学』晃洋書房、2002
→日本語で書かれた研究書としては上の二冊が有名。
    Koji HIROSE, Problematique de l'institution dans la dernière philosophie de Maurice Merleau-Ponty, Numero special des Etudes de Langues et de Cultures, No. 2, mars 2004, Institut de Langues et de Cultures Modernes, Universite de Tsukuba (la these de dotorat soutenue a l'Universite de Paris I, France, 1993)
→日本語のものはないけど、廣瀬さんのこの研究が世界的に有名。


 レヴィナス
    Yasuhiko Murakami, Lévinas phénoménologue, Grenoble, J. Millon, 2002
    上田和彦『レヴィナスとブランショ : 「他者」を揺るがす中性的なもの』水声社、2005
→日本人が書いた二冊の研究書。現象学方面からの研究が進んできたかな。


 ドゥルーズ
    江川隆男『存在と差異 : ドゥルーズの超越論的経験論』知泉書館、2003
    Miguel de Beistegui, Truth and genesis : philosophy as differential ontology, Bloomington, Indiana University Press, 2004
→前者はドゥルーズ研究のモノグラフとして世界的に見てもすごいもの。その一年後にまたすごい本が英語で出た。これはハイデガーとドゥルーズの存在論を論じたもの。


 デリダ
    松本浩治『デリダ・感染する哲学 : 秘められた発生の問題』青弓社、1998
    Paola Marrati, Genesis and trace : Derrida reading Husserl and Heidegger, translated by Simon Sparks, Stanford, Calif. : Stanford University Press , 2005(1998)
    Leonard Lawlor, Derrida and Husserl : the basic problem of phenomenology, Bloomington, Indiana University Press, 2002
→デリダの出発点である現象学との関連から論じたこの三つが最も哲学的には有益かなあ。


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